ニムルス王の物語

このページではニーマランダムの王ニムルスが建国を決意するまでの物語を紹介します。


・ニムルス

幼くして両親を失くしたそのライオンの名は、ニムルスといいました。
幼いニムルスは、西の草原で両親と共に穏やかに暮らしていました。満月のある日、ニムルスは父と母のもとでウトウト眠っていると、母が小さな声でこう言うのが聞こえました。
「おきなさいニムルス、それから、あなたの秘密の部屋にお入りなさい。お急ぎなさい。」
ニムルスはウトウトしていたので「ここにいたいよ。」と言いましたが、母は「ニムルス、良い子だからお部屋で待っていなさい」と言いました。秘密の部屋とは母とニムルスしか知らない小さな小さな洞窟のことでした。
ニムルスはウトウトしながら秘密の部屋に向かい、父と母が来るのを待ちました。
しばらくすると、父と母が大きな声で吠えているのが聞こえました。
そして、たくさんの狼の声も聞こえました。声の数があまりに多くて何匹いるのか幼いニムルスには想像もつきませんでした。ただただ怖くて、体に力が入っていました。

しばらくすると父と母の声が聞こえなくなり、あたりは静かになりました。
狼達が話す声はまだいくらか聞こえていました。
ニムルスは怖くて怖くて、ひとつも動くことができませんでした。
いつしか狼の声も聞こえなくなり、草原はもとの静かな草原に戻りました。しかし、ニムルスを迎えに来るはずの父母は、いつまで待ってもやって来ませんでした。

随分と時間が経ってから、ニムルスは秘密の部屋を出て、月のあかりをたよりに父と母を探しました。
しかし、その時から、ニムルスが父と母に会うことは二度とありませんでした。

それから数日後、ニムルスは一匹の大きな象に出くわしました。
ニムルスは住んでいた草原を旅立ち、歩き続けていたので疲れ果てていました。大きな象に恐怖を感じました。しかし、象は弱り果てたニムルスを見て、一匹の魚を食べるように勧めてきました。
「君は魚が好きじゃないかもしれないけど、食べなさい。元気になるから。」と象は言いました。
ニムルスは象の言葉を理解することは出来ませんでしたが、極限までお腹が空いていたため、一心不乱に差し出された魚を食べました。
その日から、ニムルスはその象と一緒に暮らすようになりました。象は小さなライオンのニムルスにいつもやさしく接しました。
ある日、象はニムルスに魚の取り方を教えました。ニムルスは魚取りに夢中になりました。それからというもの、ニムルスは好んで魚を食べるようになりました。
ニムルスと象はお互いに何を言っているのか言葉では分かりませんでしたが、身振り手振りでお互いが何を言っているのかは伝わりました。そうやって、ニムルスと象は仲良く暮らしました。

ニムルスと象が一緒に暮らすようになって数ヶ月が過ぎたある日、象は息を引き取りました。それが象の寿命でしたが、ニムルスはなぜ象が死んだのか分かりませんでした。ニムルスはまた一人になってしまいました。

象が死んだ夜、ニムルスは心から思いました。
「象のおじさん、今まで一緒に居てくれてありがとう。初めて会った時、ぼくに魚をくれてありがとう。毎日が楽しかったよ。でも、またひとりになってしまったよ。ずっと一緒にいたかったよ。」

それから、ニムルスは長い旅に出ました。
旅の先々でニムルスは動物が他の動物に襲われている姿を見ました。
ニムルスが襲われることもありました。しかし、ニムルスは戦い、何年も生き延びました。

象と別れてから数年が経ったある夜、ニムルスは不思議な夢を見ました。夢の中でニムルスはそれまでに見たこともない動物に会いました。その動物は強い光を放ち、白い翼を持っているように見えました。
白い動物はニムルスに尋ねました。「お前はこの世界の何を見てきたのか。」
ニムルスは答えました。「数え切れないほどの動物の悲しい姿を見た。」
白い動物は続けました。「お前は今、何を望むのか。」
ニムルスは答えました。「悲しみをなくしたい。動物が殺しあわず、助けあって生きる世界で生きていたい。」
白い動物は言いました。「そうか、私はお前に動物達の未来を感じた。お前のその願い、叶えてみせろ。私はそのきっかけを与えよう。」
白い動物がそう言うと、辺りは光に包まれました。

その日からニムルスは不思議な力を手にしました。動物の心に直接話しかけることができるようになったのです。
そしてさらに不思議なことに、ニムルスと心がつながった動物は、ニムルスと同じ言葉を話すことができるようになったのです。

ある夜、ニムルスは自分に問いかけました。
「私はなぜ旅をしているのだろうか。旅を通して私が動物たちとつながることで、動物たちを平和に導くことができるなら、そうしたい。しかし、これまでの旅で私は自分の無力さを痛感した。私が語りかけても、動物が変わることはなかった。分かり合える動物もいたが、それはいつも食べられる方の動物だ。力の強い動物達は他の動物を食べることを当然のことだと考えている。動物が生きるためには何かを食べなければならないのはわかる。しかし、動物の悲劇を繰り返させたくない。私のように魚を食べるようになってもらうためには、どうしたらよいのか。その答えが見つかればよいのだが。」
ニムルスは、動物達の世界を変えるための“足らない何か”を探して、旅を続けることにしました。


・ニムルスとクリスティア

ニムルスが旅をしていると、不思議な話を聞くようになりました。
南の草原に病気や怪我を治せる象がいるというのです。
ニムルスはその象に会ってみたいと思い、その象がいると言われている南の草原に向かいました。
ニムルスが象に会った時、象は歩けなくなったキリンの足を治していました。
ニムルスは象の心に直接訪ねました。
「君はどうして怪我を治せるのだ。」
象はニムルスのテレパシーに驚きましたが、落ち着いて答えました。
「私が幼いころに大きな火山の噴火があった。そのせいで、私は大切な仲間の多くを怪我や病気で失った。仲間が次々と死んでいく中で、私はいつも願っていた。どうか、誰か皆の怪我と病気を治してください。元の幸せな生活を返してください。そう願っていたが、私の目の前で仲間は毎日のように死んでいった。そして、とうとう私ともう1匹の象の2匹だけになってしまった。最後の仲間が死んだ夜、私は幻を見た。その幻は私が動物達の怪我や病気を治せるようになると言った。そして、それは現実となった。」
象はニムルスに聞き返しました。
「なぜ、あなたと私はこのように話すことができるのですか。」
ニムルスは答えました。
「私も君のように幻を見た。その日から、私は他の動物達の心と直接話すことができるようになった。」
ニムルスは続けて言いました。
「私は旅をしている。そして、君の噂を何度も聞いて、今こうして会いに来た。君にお願いしたい。共に旅に出ないか。なぜなら・・・」
ニムルスは、その象、クリスティアに動物の世界を平和に導きたいという思いを伝えました。ニムルスとクリスティアは、平和な世界を作りたいという思いが同じでした。そして、彼らは共に旅をすることにしました。


・ニムルスとガイセル

北の森に、100頭を超える大きな所帯の熊の群れがいました。この大きな群れを率いているのはガイセルという熊でした。ガイセルは特別に大柄な熊ではありませんでしたが、知能が非常に発達しており、熱い情熱を内に秘めた熊でした。
ガイセルは幼い頃からの研究家で、日常生活の中で様々な実験をしていましたが、青年になったころ、食料の魚を増やすことに成功しました(養殖という高いレベルではなく、卵を孕んだ魚を食べないことと、魚が育ちやすいように川の苔や小魚を大切にすることなどで魚を増やしました)。
ガイセルの家族は食料に困ることがなくなりました。ガイセルが大人になったころに、この噂を聞きつけた他の熊の家族がガイセルにその秘密を聞きに集まりました。ガイセルは気前よくその方法を皆に教えました。しかし、それを実践できる熊は他にいませんでした。結局、ガイセルの周りに多くの熊が集まり、ガイセルの指導のもと群れは大きくなっていきました。
群れが大きくなると、群れの中で小さな衝突が起こり始めました。ガイセルは群れのいざこざをおさめるための何かが足らないと感じていました。そんな折に、ガイセルの噂を聞きつけたニムルスとクリスティアが森にやってきました。
ガイセルは、ニムルスとクリスティアの超現実的な能力にひどく感動しました。それは、自分の能力の限界を知らされる出来事でもありました。
一方のニムルスとクリスティアは、ガイセルの卓越した知能とそれがもたらした「豊富な食料」のある世界に感動しました。

彼らは、それまで感じていた“足らない何か”に出会えた気がしました。
そして、いつか共に協力をすることを約束して、ニムルスとクリスティアはある噂を頼りに、最後の足らない何かを探す旅に出ました。


・ニムルスとオーウィン

東の草原に住むサイのオーウィンはとてもやさしくて、正直で、少し臆病な動物でした。オーウィンの住む草原には、世界に平和をもたらすことができる動物がいるという噂が広まっていました。オーウィンはその動物がどんな動物なのか見てみたいと思いました。そして、何か力になりたいと思っていました。
「世界に平和をもたらす動物の力になりたい。」
その願いは、オーウィンからその話を聞いた鳥の群れを通して、北の森の熊に伝わり、ニムルスとクリスティアに伝わりました。

ニムルスとクリスティアはオーウィンに出会い、尋ねました。
「世界の平和のために力になりたいというサイは君か。」
オーウィンはそうだと言って、青年になったある日に“不思議な光”を見た話をしました。 彼はその光から授けられた“泡”についても話しました。なんということでしょうか、その泡に思いを伝えると、その思いは多くの動物に伝わるというのです。そして、オーウィンはその泡の守護者だというのです。
「その泡が本当に思いを広めてくれるものだとして、君はその泡を私に使わせてくれるか。」
ニムルスの問いにオーウィンは答えました。
「あなたが、世界に平和をもたらす者ならば、使わせない理由はない。」
こうして、オーウィンはニムルスとクリスティアと共に再び旅に出ることにしました。


・共和国建国の決意

ニムルスは、長い旅を経て、世界を平和に導くための“足りない何か”が見つかったと感じていました。
クリスティアが持つ、動物達を癒す治癒の力。
ガイセルがもたらす、食料(魚)を増やす技術。
オーウィンが持つ、思いを広く伝えることができるという泡の存在。
そして、ニムルスが持つ、心に直接話しかける力。
これらの力が合わされば、動物達の世界を作り変えることができると感じていたのです。
こうして、ニムルスはクリスティア、ガイセル、オーウィンと共に平和のための国を作ることを決意しました。